• 地盤情報特集

スウェーデン式サウンディング試験とN値

2012年12月10日

元東海大学藤井教授が語る、地盤調査の歴史と現状の問題点。

東海大学 藤井教授現在、戸建住宅の地盤調査法はスウェーデン式サウンディング試験が主流であるが…

今から20年前はスウェーデン式サウンディング試験(以後、SWS試験と呼ぶ※1)を行う住宅会社はほとんどなく、地盤の硬軟は鉄筋を地面に突き刺した時の手の感触や塀から飛び降りた時の足の感触などで評価していた。もし、不同沈下(※2)が発生した時は地盤のせいにしていた。

SWS試験が世の中に広まり始めたのは昭和60年代後期。不同沈下がマスコミに社会問題として取り上げられ始めてからである。

当時、SWS試験は社会的に認知されていたわけではなく、標準貫入試験(※3)の代用とした見方をされていた。SWS試験から得られたWsw、Nsw(※4,5)N値(※6)に変換して換算N値と呼んでいた。それは今でも変わりない。この点が非常に大きな問題なのであり、地盤の変形状況が原位置でわかるSWS試験の良さを殺してしまった。

そもそも、N値とNswとの関係は、筆者のこれまでの研究によると、N値で5以下、Nswで40以下では両者の対応性はほとんどない。特に表層から5m以内ではその傾向が非常に強く、筆者はN値の方に問題があると思っている。

SWS試験が社会的に認知されたのは平成13年7月2日、国土交通省告示第1113号での地盤の許容応力度式である。

この式は地盤の支持力(地盤の破壊に対する抵抗)式とみなされているが、恐らく地耐力(地盤の破壊に対する抵抗と変形を満足する荷重度)を評価しているものと思う。

すなわち、これは支持力と即時沈下を考慮した式であり、対象深さを2mとしているのもこの部分が戸建住宅の布基礎あるいはべた基礎(※7,8)として、最も重要な接地圧(※9)の影響領域と見ているのであろう。したがって、地盤の許容応力度の式中に定数として30kN/m2(※10)と示されているが、それは自沈(※11)しても30kN/m2が確保されるのではなく、自沈荷重1kNを下回る荷重で自沈した場合はその25cm区間の地盤の許容応力度は0kN/m2にみなせということである。このように、法律でSWS試験結果に変形を含めた評価手法を組み込ませているにも関わらず、実際はそれが正しく理解されてはいない。

筆者は東京地方裁判所の調停委員・専門委員となってもう10年が経過する。
その間、様々な事件を経験してきた。
最も多いのは不均質地盤をめぐるトラブルである。

特に目立つのがガラ地盤(※12)である。全体がびっしりとコンクリートガラで埋め立てられているならそれほど問題はないが、局所的に軟弱な箇所があるために不同沈下が発生したケースや転石上(※13)での締固め不足のために発生した凹凸状の不同沈下、軟弱地盤であるにも関わらず庭に築山をしたことによる地盤変状が原因の不同沈下など、あまりにも地盤の変形を無視したことによる事件が跡を絶たない。これは、N値信奉による地盤強度第一主義が招いた結果によるものである。

地盤の変形に対してはもっと神経質にならなければならない。

しかし、SWS試験のみでは地盤の変形に関する正確な情報が得られないのも事実である。また、液状化の判定においても土質の判別や地下水位の測定には無理がある。このような欠点があっても、この試験法は施主がその場で地盤の状況を把握できる特徴を有し、それがトラブル回避にもつながるのであって、戸建住宅の地盤調査法としてこれに勝る試験方法はない。

今後、この試験方法にプラスしてSWS試験孔を利用した地下水位の測定やベーン試験(※14)の実施による土のせん断強度(※15)、さらには電気検層技術による土の判別法などを組み入れることができれば、多くの地盤情報が得られる。

また、SWS試験で圧密沈下(※16)の評価は難しいが、即時沈下の評価で代用できる。このように背丈にあった範囲で得られた結果をもとに適切な設計ができればよいのであって、ことさら新しい調査法に固守する必要は全くない。今回の東日本大震災により、ビルダー(※17)は地盤の重要性を十分に認識したものと思う。学識経験者の一人として、SWS試験を中心とした地盤調査技術が、これからますます発展してゆくことを期待したい。

 

東海大学 藤井教授


藤井 衛(フジイ マモル)

元東海大学工学部 建築学科主任教授

住宅地盤に関わる著者多数
主な著書に「住宅地盤がわかる本」(オーム社)
(建築技術)


【 用 語 】

※1 スウェーデン式サウンディング試験・・・
ロッドやスクリューなどからなる試験機で、地盤の強度を調べる試験。簡易だが、安価で狭い敷地でも実施が可能なことから、一般的に住宅地盤の調査に利用される。

※2 不同沈下・・・
地盤がとともに住宅が傾いてしまう現象。

※3 標準貫入試験・・・
63.5kgのハンマーを75cmの高さから自由落下させ、サンプラーを30cm打込む試験方法。

※4 Wsw・・・
荷重の単位

※5 Nsw・・・
スクリューの半回転数(半周回すと1)

※6 N値・・・
63.5kgのハンマーを75cmの高さから自由落下させ、サンプラーを30cm打込むのに要する打撃回数。標準貫入試験の結果として得られる。強度の指標となる値。換算N値は、WswやNswなど、標準貫入試験以外の試験法から得られる値をN値に換算したもの。

※7 布基礎・・・
逆T字型のコンクリートを使用した基礎。比較的良好な地盤の際に選ばれる。

※8 べた基礎・・・
基礎底板を板状の鉄筋コンクリートとする基礎。設置面積が大きいため、荷重を分散して地盤に伝えることができる。直接基礎と呼ばれることもある。

※9 接地圧・・・
基礎底板が地盤に伝える圧力。重さが同じであれば、設置面積が広いと接地圧は低くなる。

※10 kN/m2・・・
接地圧力を表す単位。1平方メートルあたりの重さをキロニュートンで表す。1kN=1000N≒102kgf

※11 自沈・・・
SWS試験において、試験機の重みだけで沈んでいくこと。

※12 ガラ地盤・・・
地層内にコンクリート片や玉石、廃材などが混ざっている地盤。地中に空間ができていることがあり、そこに砂が落ちて地盤沈下を起こしやすい。ガラは地盤補強工事の妨げとなることもある。

※13 転石・・・
地表や地中にある、表面が滑らかな石塊。

※14 ベーン試験・・・
土の粘着力・せん断強度を求める試験

※15 せん断強度・・・
土の強度を計る際に利用する強度指標

※16 圧密沈下・・・
地盤が荷重を受けることで徐々に沈んでいく沈下

※17 ビルダー・・・
設計事務所や工務店などを含む、建設会社など住宅供給者のこと。